日記

どこにでもいる人の、ありふれた日記です。

歯列矯正の話

歯列矯正をしたいと思った。私は上の歯が出ている。小さい頃、歯医者さんに連れていかれて矯正するために歯型取ったりしたけれど、結局お金がかかるので、親に悪いと思って辞めてしまった。子どもなのに気を使ってたの、本当に損してる。それで、大人になってからも親に歯が出てることをからかわれたりしてたので、自分で働いたお金で払える歳にもなったし、矯正をすることにした。私は周りの目をとても気にするので、裏側に器具を付けて見えないようにしたかった。それは難しい技術らしくて、行きつけの歯医者さんに紹介状を書いてもらって、有名な矯正歯科に行った。すごく混んでいて、とてもきれいな院内だった。最初に問診票を書いて、気になってる部分(もちろん、上の歯)にマルをつけて受付の人に提出した。しばらく待たされて、院長先生と直接お話しをすることになった。院長先生は、有名な学校を出て、なんだかすごい人らしかった。歯の仕組みを模型を使って丁寧に説明してくれた。あなたも、絶対にきれいになりますと言われて、とても嬉しかった。それで、裏側でやりたいのですがと言ったら、院長先生の顔色が変わった。どうして裏側がいいのかと聞かれたので、周りの目が気になってしまうと答えたら、矯正は恥ずかしいことではない、腕を骨折した人がギプスをするように、歯列矯正だってれっきとした治療なんだと言われた。それから、本棚から雑誌を持ってきて、私の目の前に広げた。外国の女の人が、矯正器具をつけて笑っている写真だった。この人はモデルさんで、器具もチャームポイントなんだと言われた。本当に、おっしゃっていることはわかるのですが、見えないように矯正したいんですと言った。相変わらず頑固だ。そうしたら先生は、ではあなたは、矯正しているひとのことを恥ずかしい存在だと思っているのかと言った。私はやっとの思いで、そのように思ったことはありませんが、私にはどうしても、器具がついてるだけで今までのように生活することが出来なくなってしまいそうなんですと答えた。私が全く考えを変えなかったので、先生はついに、それならうちでは出来ないよと言って追い返されてしまった。とてもとても悲くて、ふくらんでた気持ちがすっかりしぼんでしまった。今まで矯正してるひとのこと恥ずかしいなんて思ったことなかったつもりだったけれど、きっと本当は、先生の言うとおり、どこかで恥ずかしいと思っていたに違いなかった。私の中の汚い部分を言い当てられて、思わず嘘をついてしまった。

結局あの後電話かかってきて、裏側矯正専門の先生を紹介してもらって、通うことになった。そんなことがあったのが一年くらい前。今は結構見た目でわかるくらい歯が引っこんできた。あれだけ言われて、表でやる1.5倍くらいお金かかったけれど、裏側でやったこと後悔してない。私は私がそういう人間だと知ってる。